「大賞は……『夜空』五木ひろしさんです!」
場内にどよめきが起こり、すぐに拍手と歓声に変わった。この瞬間、新興の芸能事務所、野口プロモーションが、芸能界参入から僅か2年で歌謡界の頂点に立ったのだ。
野口修は人生の頂点にいた。沢村忠を擁し、王貞治や青木功といった難敵を退け「日本プロスポーツ大賞」を獲得。そして五木ひろしで「日本レコード大賞」である。奇跡と言っていい。奇跡の2冠達成である。
しかし、頂点まで駆け上ったら、後は静かに下山するだけである。一番の問題は野口修本人がそのことにまったく気付いていなかったことだ。ここから彼の転落が始まるのである。
(「五木ひろしの光と影」編 第1部完)