<128>野崎幸助さんの「いごん」に使われた紙、インク、封筒をたどる
ご丁寧に封筒の裏もコピーされて家裁に提出されていたが、裏面には何も書かれていなかった。
「たしか5年ほど前に金色の封筒にしたんではなかったかな? その前は白い封筒に赤と青のラインが入って『アプリコ』と書かれていたような気がする」
古くからアプリコに出入りしている会社の関係者からそのような話を聞いたのは、2018年の12月初旬だった。5年ほど前という時期が微妙であったが、印刷会社をなんとか特定して当たってみることにした。
「ほう、そうでしたか。では調べてみましょうか」
住宅街の一角にあった印刷所の応接間で、同社の社長と向かい合った。40代後半の明るい方で、説明に耳を傾けてくれた。
「印刷代を後から値切ってきたり、無理難題を押し付けてきたりと大変な社長でしたが、憎めないところもあって……。でも遺言が出てきたと聞いたときは驚きましたよ。イブちゃんのことに触れていないし、あの社長が田辺市に全部寄付するという内容にも違和感がありましたから」
社長は従業員を呼び、倉庫にあるはずのアプリコとの取引伝票を探すように指示した。その後は2人でドン・ファンの思い出話をしながら待った。 =つづく