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荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<69>橋とか川とか…こういうのは「時」を過ごしたくなる場所なんだ

公開日: 更新日:

東京慕情<2>

 作家の小林信彦さんと東京を一緒に歩いて撮影した「私説東京繁昌記」〔共著、1984年刊〕、もう40年ぐらい前になるんだねぇ(1983~84年に撮影)。

 これは、銀座の歩行者天国、和光の前。銀座が賑わっている頃の写真だね。小林さんが歩くコースを作ってくれて随行したから、他の銀座の写真も、写真そのものは、あっさりしているね。街の中にほんのちょっと立ち止まっているというか、通り過ぎてちょこっと見たという感じだね、文字どおり“一瞥”の写真。オレが電通を辞めた後に東京の街を、あちこち歩いて撮った『東京は、秋』(1984年刊写真集、1972~73年撮影。連載12に掲載)だと、(カメラ)アサヒペンタックス6×7に三脚を立ててしっかりと撮る、“凝視”するという感じなんだね。ところが、このときはさ、「いい女いるなぁ」「いいケツだなぁ」と思ってもついていかない、淡白なんだね。銀座を急ぎ足で、とどまらないでさっさと移動しちゃう。例えれば、いい女についていかないで、ウインクするくらいで去っていくっていう感じかな。だから後になって見たときに、おもしろさがあるね。

移り変わりが街のおもしろさ

 これは佃島だね。佃小橋から見た景色とか、こーゆーところになると急ぎ足じゃなく、ゆっくりと撮る。橋とか川になるとゆっくり時間をかける。こういう場所は、時を過ごしたくなる場所なんだね。この写真だってさ、「用水桶イイね~」なんて言ってカメラ構えてると横切ってくれるんだよ、少女が。





 この船は、「おわい船」って言ったかな、糞尿運ぶやつ。船の形にもノスタルジーを感じるね。カラー写真は、「私説東京繁昌記」の新装版のために8年後(1992年)に撮ったんだけど、こんなに変わっちゃうんだ。銭湯に行くおじいちゃんと少女が橋の上で出逢う、イイねぇ。船の形も変わってきてるね、“時”が、写っている。

 わずか8年で景色が大きく変わっちゃってるわけだけど、ここらへんの移り変わりが東京ってゆーか、街のおもしろさなんだよね。こういうところに行くとワクワクするんだよ。

(構成=内田真由美)

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