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荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<70>写真は自分の情とか相手との関係が見えるから面白い

公開日: 更新日:

東京慕情<3>

 これは渋谷の駅前の交差点だよ。そうかぁ、39年前の渋谷なんだね(1983年撮影)。オレは一人で歩くときもコースを決めないし、地図も持たないで、勘だけを頼りに歩いてたんだ。で、ふらふらと、とんでもない横丁に入っちゃったりしたんだけどね。

 作家の小林信彦さんと東京を一緒に歩いて撮影したときは、小林さんが歩くコースをつくってくれたんだよ(文芸誌「海」の1983年6月号から84年5月号に連載。後に共著「私説東京繁昌記」刊行〔1984年〕)。街の中にほんのちょっと立ち止まっているというか、通り過ぎてるだけなんだけど、肝心なとこはぽんとシャッター押しちゃってるんだ。それで、すーっと通りすぎちゃう、そーゆー撮り方なんだね。だから後で見ると面白い。通り過ぎてちょこっと見たという感じでね、文字どおり“一瞥”の写真なんだよ。

単なる記録じゃないんだよ

 これは表参道の裏通りだね。この写真は、人間の肢体ね、形が面白いね。へんてこなもんだよ、動きの瞬間を止められると。なんだかわからないんだけど、そこが面白くてしょうがないんだな。街にいる人がみんなパントマイムのようだね。セリフなしでさ、彫像になってくれるんだよ。





景色は変わっても人がいれば街は生き続ける

 雪の靖国神社と、雪の神田明神。少女は、お寺を抜けて家に帰るんだ。お寺の近所に住んでる子どもはみんなそうするんだよ。オレもそうだったから、この少女の気持ちがわかるな。

 写真は、単なる記録じゃなくて、自分の情とか相手との関係が見えるから面白いんだけど、小林さんと歩いて撮ったときの写真、“一瞥”の写真にも、しっかりと生きものとしての「東京」が写ってる。よーするに、街の景観がいくら変貌していっても、そこに住む人たちの思いは残るわけで、そーいった失われていったものや忘れられない過去にノスタルジーが生じるんだよ。街の景色は変わっても人がいれば街は生き続けるってことだね。

(構成=内田真由美)

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