映画「ドライブ・マイ・カー」米アカデミー賞獲得なるか 8日にノミネート作品発表
今月8日に控える米アカデミー賞ノミネート作品発表を前に、日本の濱口竜介監督作品「ドライブ・マイ・カー」への期待が改めて高まっている。すでにカンヌ国際映画祭では邦画初となる脚本賞を受賞したほか、ゴールデングローブ賞でも同じく邦画として62年ぶりの非英語映画賞を受賞。さらに映画誌「キネマ旬報」が2日に発表した2021年公開作のベスト・テンでは日本映画1位に。アメリカのみならず世界中から絶賛される状況に、ノミネートされれば日本初の作品賞受賞も見えてくる。その可能性について、映画批評家の前田有一氏が語る。
「近年の米アカデミー賞では多様性の尊重が大きな関心事となっていて、以前では考えられなかった韓国作品の受賞など、アジア重視の流れも見て取れます。また、本作はNYやボストンの批評家協会賞に輝くなど、プロや批評家筋からの評価が突出して高い。今年のアカデミー賞は北京五輪の影響などで例年より1カ月遅い3月27日なので、今後はプロだけでなく“観客”を巻き込んだ世論がどこまで盛り上がるかが重要です」
「村上春樹文学の世界観を見事に映像化」
村上春樹の「女のいない男たち」に収録された同名短編を「ハッピーアワー」(15年)、「寝ても覚めても」(18年)の濱口竜介監督が西島秀俊主演で長編映画化。西島演じる舞台俳優兼演出家の家福は、浮気を繰り返していた妻(霧島れいか)を、その理由を聞く前に亡くしてしまう。以来、抜け殻のように生きる彼は、仕事先の広島であてがわれた無口な運転手のみさき(三浦透子)、そして妻の浮気相手だった俳優の高槻(岡田将生)と出会い交流するうち、知らなかった妻の秘密に迫ることになる。
「映画最大の美点は村上文学の世界観を見事に映像化している点です。原稿用紙80枚程度の短編を179分の大長編にしたことでわかる通り、映画は主人公の年齢や舞台、車の色からあらすじまで原作と大幅に異なります。しかしもともと村上作品はセリフの言い回しが独特で、そのまま映画にすると非現実的になりがち。その点、濱口監督はアレンジ上手で、リアルな現代劇ながらどこから見ても村上ワールドの人間模様に仕上げていて、これなら原作ファンも納得でしょう。また、必ずしも原作を読んでいないであろう海外の批評家も絶賛している通り、一本の映画として見ても大人向けの上質なロードムービーとして退屈知らずの3時間を楽しめると思います」(前田氏)
世界最大の映画賞での吉報を期待して、今のうちに観賞しておきたい。