<73>歩けなくなっても写真は撮れる…街はいろいろなことを教えてくれる
オレの写真集、これまでに500冊以上出てるっていうけどね、もっといってるみたいだよ。何年も前に、海外で出版してるのも入れたら、550冊超えてるって言ってたね。写真集がどれぐらい出てるのかって、よく聞かれるけど、何冊なのかわからないんだよね(笑)。
毎年、誕生日の5月25日に写真集を出しててね、これは『6×7反撃』。なんに反撃すんのかねぇ? ハハハ…。“6×7”っていうのは完全にダジャレなんだよ。このとき67歳で、カメラが6×7で、「反撃」っていうのは、デジタルカメラに対してのことなんじゃないの、きっと(笑)。写真はフィルムだぞ! っていうような、そんな気分だったんじゃないのかねぇ。
銀座四丁目の交差点は…
この写真、銀座四丁目の交差点なんだけど、丸いのを載せたこういうのが、ぷぁ~って通るんだから。こんなの雇ったって来ないよ。すごいねぇ~。銀座三越の2階から交差点を見てると、おもしろいんだよね。この車椅子の人は、信号をぎりぎりに渡りはじめて、信号が変わっても、まだ渡れなかったんだね。交差点が人で溢れるときとか、突如として交差点が無人になったりとか、そういうのを眺めてると、一日が過ぎちゃう感じだね。
だから、大丈夫だって言ってたんだよ。歩けなくなったって写真は撮れる、都市は撮れる(笑)。無常観なんかじゃないけど、そういうのって、なんかあるじゃない。街はいろいろなことを教えてくれるっていうかさ。
■興奮しちゃいけない
たとえば、小津(安二郎)の映画『東京物語』なんか観てると、家屋の無人の様子を長回しっていうか、少し長い時間撮ってるけど、演出なんかしなくたって、あんな光景はしょっちゅうそこらにあるわけよ。銀座四丁目の交差点もそうだけど、渋谷駅前のスクランブル交差点とかさぁ。あんなに大勢の人たちがムチャクチャに歩いてるのに、突如として誰もいない交差点になることがあるの。無の空間になる「時」があるんだよね。そりゃもう、たまんないじゃない。でも、たまんないとかそんなこと言わないで、淡々と撮るけどね。興奮しちゃいけない、ハハハハ…。
(構成=内田真由美)