<170>「ドン・ファンを殺したのは早貴」公衆電話から突然かかってきた謎の電話
2020年の12月20日は日曜日であった。夕方に自宅のリビングで一人のんびりと本を読んでいると、横に置いてあった携帯電話が鳴った。画面の表示は「公衆電話」である。身元を明らかにしたくない相手からだと推測し、嫌な予感がした。
「はい」
そんな時はこちらの名前は話さず、ただ返事だけをするのが、私のやり方だ。
「吉田さんの携帯電話ですか?」
30代半ばから40歳ぐらいの落ち着いた雰囲気のある男性の声だった。
「おざきさき、って知っていますよね?」
電話の調子が悪いのか、滑舌が悪いのか分からないが、「おざき」と聞こえた。
「はあ? 知らないよ?おざきさき?」
「いえ、野崎早貴です。ドン・ファンの……」
「野崎早貴? 違うんじゃないの?」
いたずら電話か、とも思って冷たい口調で答えた。