ロシア国営局スタッフの「NO WAR」は称賛…「I am not ABE」はスルーした日本のテレビ局
「NO WAR(戦争反対)。プロパガンダを信じるな。この人たちはあなたにうそをついている」
ロシア国営テレビ「チャンネル1」の生放送中に、ウクライナ侵攻に反対するプラカードを掲げた女性の勇気を称える声が世界中に広がっている。
ロシアの独立系メディアによると、女性は「チャンネル1」の編集スタッフ。看板番組「ブレーミャ」の放送中、ニュースを伝えるキャスターの背後に立つと、ロシア語と英語で書かれたメッセージを掲げながら「戦争をやめて」と訴えた。
この映像はたちまち世界中に拡散。日本国内でもNHKや民放番組で繰り返し報じられ、コメンテーターらが「独裁政権下で声を上げた彼女の勇気を称えたい」と言い、「こうした民意が広がることを願う」とも語っていたが、日本の放送局が一斉にこの女性スタッフの行動を称賛する姿勢に、鼻白んでしまう視聴者も少なくないのではないか。
「ISIL(イスラム国)」による日本人の殺害事件が発生した2015年、「テロとの戦い」を掲げる欧米などと歩調を合わせるかのように拳を振り上げ、「全面戦争もやむを得ない」と前のめりになる安倍政権に対し、元経産官僚の古賀茂明氏はコメンテーターを務めていた民放番組で、「I am not ABE」などと発言。これが安倍官邸の逆鱗に触れたといい、古賀氏は番組を降板。最後の出演でも、古賀氏は「I am not ABE」と書いた手製の紙を掲げ、「単なる安倍批判ではなく、日本人がどういう生き方をしようかという、ひとつの考え方」と説明していたが、当時、この古賀氏の言動を大きく取り上げるテレビ局はほぼ皆無だった。
政府・与党の報道に対する姿勢はプーチン政権と似たり寄ったり
「ISIL」戦闘員は当時の安倍首相を「アベ」と名指しで非難。古賀氏は「ISIL」が日本人を標的にした無差別テロが起きかねないと危惧し、「日本人すべてが安倍首相と同じ考えではない」との意味も含めて発信したわけだが、おそらく、ロシア「チャンネル1」で「NO WAR」と声を上げた女性スタッフも、「プーチン大統領=すべてのロシア人の姿勢ではない」と言いたかったに違いない。
安倍政権は民放各社に「お願い」と題した要請文を送って選挙報道を“牽制”。先日も、自民党の情報通信戦略調査会が民放連とNHKの各専務理事を呼び、第三者機関の放送倫理・番組向上機構(BPO)やテレビ各局の番組審議会の活動状況について質疑したため、民放労連(日本民間放送労働組合連合会)が「言論・表現の自由を脅かす」と抗議声明を出す事態になったが、安倍政権以降の政府・与党の報道に対する姿勢はプーチン政権と似たり寄ったりだ。
そんな強権政府に対して声を上げるどころか、唯々諾々と従っているのが今の日本の放送局の実態であり、政府・与党が今後「日本も核共有だ」「派兵しろ」などと言いだしたら、黙って右向け右になりかねない。
「プロパガンダを信じるな。この人たちはあなたにうそをついている」というロシア国営チャンネルの女性スタッフの言葉を、日本の放送局は「自戒」を込めて捉えるべきではないのか。