この国の音楽業界には、こんなにカッコいい72歳がいる。
前回の予告通り、今週の日曜日(17日)、大島新監督の新作『国葬の日』上映トークイベントをポレポレ東中野で行った。そのまなざしにつよい共感を抱いてきた同世代の大島監督だが、公開の場で対談するのは初めてのこと。だが前売りでチケット完売というありがたい状況にも背中を押され、ずいぶんリラックスして話すことができた。
壇上のふたりへの時差も温度差もない反応から、皮肉や洒落を解する観客に恵まれた幸運が露わになったころ、監督がぼくに質問した。
「松尾さんはとてもメジャーな場所で仕事をしていますが、こういう(政治ドキュメンタリー)映画をこまめに観ていますよね。どうしてですか」
エンターテインメントは、どこまでいっても〈ひとときの憩い〉でしかない。だからこそかけがえのない価値があるし、そこにぼくも尊さや誇りを見出している。でも〈憩い〉がたとえどんなにメジャーでダイナミックなものになったところで、世の中を変えられるかというと、たとえば戦争を止めたりする力までは、残念ながら、ない。せいぜい日常の憂さを晴らしてくれたり、「戦争なんかより、ほかにもっと楽しいことあるよな」と思わせてくれる程度だろう。逆に「戦争って楽しそう」とそそのかすことは得意そうで怖いのだが。