田中角栄没後30年…功罪2つの視点で描く舞台「闇の将軍」作・演出の中村ノブアキさんインタビュー
人気劇団JACROWが8~17日、池袋・東京芸術劇場シアターウエストで「闇の将軍」四部作を一挙上演する。これは12月16日で没後30年になる田中角栄の評伝劇で紀伊国屋演劇賞・個人賞受賞作品。なぜ今、角栄なのか、代表で作・演出の中村ノブアキさんに話を聞いた。
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旗揚げは2001年ですが、最初は高校のイジメ死傷事件を背景に週刊誌の過熱報道を描いた「PRESS」など事件をテーマにした作品が多く、転換点になったのが15年の「ざくろのような」でした。老舗電機会社と次世代電池開発で対抗する新興電機会社との攻防を描いた群像劇です。
私も会社員(大手広告代理店勤務)なので、テーマとして身近なものでした。それから、大手家具会社の父娘の反目をモデルにした「骨と肉」(17年)と企業ものが続きました。
角栄を取り上げたのは本屋で偶然手に取った早野透氏の著書「田中角栄-戦後日本の悲しき自画像」という評伝がきっかけです。ロッキード事件や金権政治家のイメージとは違う人間味あふれるキャラクターに引かれ、“これは芝居にできるのでは”と直感しました。
政治家としての彼の「罪」の面だけではなく、日中国交回復を成し遂げた決断力やリーダーシップという「功」を描くことで、角栄の人間としての側面を描けたらと思いました。また、戦後日本政治の裏面史が重要なモチーフです。
角栄役の狩野和馬や大平正芳役の内田健介など、物腰から声音までそっくりと言われますが、初演の時の稽古では小劇場の役者にしか見えないので、腹を立てて帰ったことがありました。それに発奮したのか、翌日からぐんぐん良くなって、狩野さんなどは角栄と生き写しとまで劇評に書かれたり。ケガの功名ですね。
劇中では安倍元首相の祖父、昭和の妖怪・岸信介も登場し、軍拡・改憲を主張しますが、角栄は「国民全員が貧しさから抜けて等しく豊かになるのが先決だ」と改憲には消極的でした。
一方からだけでなく、相反する2つの視点からものごとを描くのが演劇であり、この「闇の将軍」シリーズもあくまでも客観的な事実を基にした人間ドラマです。自民党支持者からも反自民からも共感できる作品だと思っています。
「闇の将軍」四部作
第1話「夕闇、山を越える」は田中角栄が史上最年少で大臣になるまで。第2話「宵闇、街に登る」では佐藤栄作の派閥を乗っ取り、福田赳夫との角福戦争を制して総理大臣に上り詰めるまで。第3話「常闇、世を照らす」はロッキード事件で自民党を離れながら「闇将軍」として君臨するも有罪判決を受け失意の日々を。第0話「やみのおふくろ」は母フメから見た政治家になる前の若き日の角栄の姿をそれぞれ描く。
出演は小平伸一郎、谷仲恵輔、宮越麻里杏、福田真夕、江口逢、芦原健介ほか。