著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

2023年「秀作ドラマ」トップ5を総括…第5位「何曜日に生まれたの」から1位のNHKドラマまで

公開日: 更新日:

 今年もまた、数えきれないほど多くのドラマが放送された。中には話題を呼んだ大作もあれば、痛々しいほどの不発弾もある。その中で、「文化としてのドラマ」という意味で高く評価したい秀作や意欲作も存在した。トップ5の順位をつけてはいるが、それぞれに個性的で魅力的な作品だ。2023年の成果として、ここに記しておきたい。

【第5位「何曜日に生まれたの」】
 (ABCテレビ・テレビ朝日系、8月6日~10月8日放送)


 1960年代のヒット曲、ザ・ホリーズの「バス・ストップ」が印象的なこのドラマ、脚本は野島伸司だ。黒目すい(飯豊まりえ)は高校時代のバイク事故をきっかけに、その後10年にわたって引きこもっている。事故を起こしたのはサッカー部のエース、雨宮純平(YU)だった。

 そんなすいが、作家の公文竜炎(溝端淳平)の依頼で新作小説のモデルを務める。売れない漫画家の父・丈治(陣内孝則)が、その小説を原作に作品を描くことになったからだ。

 すいの言動を盗聴する、公文や編集者の来栖久美(シシド・カフカ)。外に出たり人と接したりすることで徐々に精神的な回復を見せる。すいは最終的に盗聴を逆に利用して、過去の出来事に心を縛られていた公文も救うことになる。

 虚構と現実、過去と現在が交錯する物語展開は、まさに野島ワールド。やや現実離れした設定だが、野島が練り上げたセリフの妙と飯豊の自然体の演技が物語に不思議なリアリティーを与えていた。

■沖縄の現在と正面から向き合うクライムサスペンスの秀作

【第4位「フェンス」】
 (WOWOW、3月19日~4月16日放送)


 22年に本土復帰50年を迎えた沖縄が舞台のドラマだ。雑誌ライターの小松綺絵(松岡茉優)は、米兵による性的暴行事件の被害を訴えるブラックミックスの女性、大嶺桜(宮本エリアナ)を取材するためにやって来た。

 桜の経営するカフェバーを訪ね、彼女の祖母・ヨシ(吉田妙子)が沖縄戦体験者で平和運動に参加していることや、父親が米軍人であることを聞く。

 一方、綺絵は都内のキャバクラで働いていた頃の客だった沖縄県警の警察官・伊佐兼史(青木崇高)に会い、米軍犯罪捜査の厳しい現実を知る。浮かび上がってくる事件の深層。ジェンダーや人種、世代間の相違、沖縄と本土、日本とアメリカなどさまざまな“フェンス”を乗り越える人間の姿が描き出されていく。

 脚本は「アンナチュラル」(TBS系)などの野木亜紀子だ。制作会社はNHKエンタープライズ。沖縄の現在と正面から向き合う、緊張感に満ちたクライムサスペンスだった。

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