『シンペイ』で映画初主演 中村橋之助さん「歌舞伎役者」としての節目を振り返る
中村橋之助さん(歌舞伎俳優/28歳)
8代目中村芝翫を父に持つ3兄弟の長男・橋之助さん(次男・福之助、三男・歌之助)。成駒屋の将来を担うホープとして歌舞伎の舞台で活躍する傍ら、今週10日公開の映画「シンペイ~歌こそすべて」(神山征二郎監督)で初主演を果たした。歌舞伎役者としてこれまでで節目になった出来事を聞いた。
■祖父の7代目中村芝翫と勘三郎叔父が立て続けに他界
僕にとって大きかったのは7代目中村芝翫の祖父の死と(中村)勘三郎伯父が亡くなったことですね。祖父が2011年、勘三郎伯父が12年と2年連続で亡くなり、大切な人を失いました。
僕は子供の時から歌舞伎が好きで、祖父にも教わりたいとずっと思っていました。でも、祖父は教える相手が歌舞伎ができる人間だと思わないと教えてはくれない人でした。例えば、踊りなんかでも、ダメ出ししたところで、直せるだけの技量がないとわかると、ダメ出しすらしてくれない人でした。
祖父とはつねに敬語で話していました。役者の先輩という時間が長かったですね。学校帰りに祖父の家に踊りの稽古に通いました。祖父がいるリビング、その隣に応接室、奥にお稽古場がある家でした。玄関を入ってリビングで「おはようございます」と祖父に挨拶してから応接で制服を着替える。まだ食べ盛りですから、着替えながら出してもらったおやつを食べていたりする。すると祖父はそれに気がつきリビングから「国生(本名)さんは踊りがうまいんでしょうね」とやんわりと言うのが聞こえる。「ヤバイ! 怒られている」とすぐにわかりますから、急いで稽古場に行くことが多かったですね。
■祖父母と天ぷらを食べ、手をつないだ思い出
祖父との思い出は天ぷらですね。1度だけ祖父と祖母に天ぷら屋さんに連れて行ってもらったことがあります。普通、子供を天ぷら屋に連れて行く時は、エビとか穴子の盛り合わせ丼とかを食べて終わりです。でも、その時食べたのはひとつずつ揚げて出してくれる天ぷらでした。その時は初めて祖父母と手をつないで帰ったのですが、祖父の手はこんなに大きくて柔らかいんだと思ったことを今も覚えています。祖父にはいつも厳しく、距離があると感じていたのであの光景は忘れられませんね。
その祖父が亡くなる年には「国生も踊れるようになってきたから、そろそろお稽古をしてやろうか」と言ってくれていました。ところが、それがかなう前に亡くなってしまった。祖父に教わるのを楽しみにしていたから本当にショックでした。