ゲノム医療の進歩により患者がふるい分けられる危惧がある
超高額な抗がん剤でも患者さんを助けるために適切に使うことができるようになり、医療費はかさんだとしても治療の有効性が示せるという意味では、ゲノム医療には大きな意義があるといえます。ただ一方で、残念ながら明らかに抗がん剤が効かない人もわかってしまいます。
たとえば乳がんでは、ホルモン治療に有効な2つの受容体と、分子標的薬に有効なHER2遺伝子がない「トリプルネガティブ」といわれるタイプがあります。従来の抗がん剤も効果がなく、早期に緩和医療になってしまうケースも少なくありません。ゲノムを調べることで他のがんでも同じように手だてがないことがはっきりしてしまい、患者さんにとって希望がない状況を生み出してしまう可能性があるのです。
そうなると、今後は病気になる前の段階で遺伝子検査を受け、がんリスクが高い場合は対象となる臓器を摘出するといった対処法を考える時代になってくるかもしれません。乳がんリスクが高いことがわかって乳房を切除したハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんのようなケースが広まることが考えられます。
■医療の公平性を保つための議論は欠かせない