漢方薬はエビデンスに乏しいという批判的な声も聞くが実際は?
ところが漢方薬では、症状と患者の体質から「証」を判断し、証に合った漢方薬を使います。同じ糖尿病であっても証が異なれば、使う薬も異なるのです。つまり、エビデンスで重視する「同じ病態であれば同じ治療効果が得られる(一般化)」「効果を再現できる(再現性)」に、漢方薬はたやすく到達できるものではないのです。
加えて、漢方薬は自然由来の生薬を原料としており、生薬の産地や採集時期で含有成分がまちまちの一面があるため、薬の規格の統一化が困難。それに加えて、一つの処方が複数生薬で構成されているため、作用成分などを解明できないこともあり、一般化や再現性に影響を与えます。
前述の通り、研究者の努力で漢方薬のエビデンスの構築が進んでいます。ただ、エビデンスの得られた漢方薬の大半は「証」を用いない試験に基づくもの。本来の「証」に合わせた処方ではない、西洋医学の薬のような画一的な処方になりがちです。
反対に、漢方医学に精通した医師が臨床でよく使う薬が、現在の臨床試験デザインに合致しておらず、エビデンスを得ていない、ということはよくあります。しかし漢方薬において、「エビデンスが乏しい=効き目が良くない」というわけでは決してないのです。
▽王瑞霞(おう・ずいか) 日本医学柔整鍼灸専門学校鍼灸学科専任教員。医学博士、中医師、鍼灸師。中国山東中医薬大学卒業。中国北京中医薬大学大学院修了。日本大学医学部医学博士。中国では伝統医学医師資格である中医師の資格を有して、日本では長年、漢方薬、鍼灸の医療現場及び教育に携わる。