依存症の人が見えている世界(3)脳が「欲しい」と感じ、制御がきかなくなる
“やめたい自分”に関しては、依存症という病気の正しい知識と理解が不可欠だといい、“やりたい自分”に関しては、「やりたいという気持ち」は意思ではなく環境に依存することを知ることが大切だと語る。
「“やめたい自分”を“やりたい自分”が上回れば再発します。やりたいを上げないためには、徹底して自分の環境を変え、ルールを守っていくしかない。お酒でも薬物でも盗撮でも再発する理由はただひとつです。ストレスや不満が原因ではなく、『再発できる環境だから』です」
スマホに置き換えると、依存症患者の世界をイメージしやすいかもしれない。
「皆さんは、なぜ用もないのに電車やトイレでスマホをいじるのでしょう? 答えは、『スマホがある(すぐに取り出せる)』からです。取り出せないほどバッグの奥底にあったら見ないですよね? 依存症も同じです。環境や状況が整っているから無意識にやってしまう。“できない”ためのルールや環境をつくることが欠かせない」
私たちが無意識にスマホを見てしまうのも、依存症回路ができているからかも……。依存症は意志の強弱とは無関係の病気なのだ。 =つづく
▽山下悠毅(やました・ゆうき) 精神科専門医・精神保健指定医。日本外来精神医療学会理事。近著に「彼らが見ている世界がわかる 依存症の人が『変わる』接し方」。