依存症の人が見えている世界(3)脳が「欲しい」と感じ、制御がきかなくなる
「依存症とは何かを説明するとき、『好き』と『欲しい』を想像すると分かりやすい」(ライフサポートクリニック・山下悠毅院長=以下同)
「好き」と呼ばれる状態は、人生をより豊かにしてくれる対象。気分がゼロからプラスの方向へ向くベクトルだ。対して、「欲しい」とは「ないと苦しい」、つまりマイナスからゼロの方向へ向くベクトルになる。
「ビール1杯が1500円と高価でも、後者は『ないと苦しい』から購入してしまう。依存傾向にあると言っていい」
脳が「欲しい」と感じることで、制御がきかなくなる。前回、依存症は脳の仕組みによって引き起こされると説明した。つまり、当事者の意志の弱さ(=怠慢)によって繰り返してしまうものではない。
「脳内に“依存症回路”ができてしまうことで、『やってはいけないのにやってしまう』ようになる。この依存症回路は、一度脳に出来上がってしまうと断つことはできません。そのため反省したとしても、薬物や盗撮など再発してしまうことが珍しくない。依存症を治療していくには、患者の意識下にある“やめたい自分”と“やりたい自分”の2つの軸を、両備えでケアしていくしかない」