マラソンで“厚底”初の失格者 それでも「シューズのドーピング」がなくならないワケ
やっぱり出たか。
オーストリアで12日に行われたウィーン・シティーマラソンで優勝したエチオピア選手が失格になった。レース後、履いていた厚底シューズが規定より10ミリ厚い50ミリだったことが発覚したからだ。マラソンの主要大会で厚底の規定違反による優勝取り消しは初めてだ。
長距離界を席巻している厚底シューズに関し、世界陸連は昨年、規制を設けた。ロード種目は、靴底の厚さは40ミリ以内とした。今回失格になった選手は、レース前に登録したシューズではなく、厚さ50ミリの「練習用シューズを誤って履いた」そうだが、わざわざ違反靴を作っていたのはおかしな話だ。
元実業団選手が言う。
「厚底で記録が伸びているのは事実ですが、自分の走り方に合ったシューズを選ぶのではなく、厚底の性能を生かすため、走り方をシューズに合わせなければならない。それが、足の裏の前部から着地するフォアフット走法です。練習ではアキレス腱や足首の痛みを訴える者が多く、大会でしか使わせない指導者もいる」
身に着けるもので記録が伸びたといえば、「高速水着」を思い出す。2008年の北京五輪に向け開発された「レーザー・レーサー」だ。素材や撥水性、つなぎ合わせの技術などがそれまでの水着とは大きく異なり、着用したトップスイマーたちは五輪で世界記録を連発した。
この水着が2年後に禁止になったのは、値段が7万円前後と高く、経済的な事情から、着用できる選手とできない選手が出て不公平が生じるのも理由のひとつだった。
例えば、人気モデルのナイキの厚底は3万円以上もする。それでも、国内では手に入らないほど売れている。アフリカの無名選手にとっては高根の花である。
世界陸連会長は元顧問
陸上界の一部からは、「値段も高いが、カーボンプレートの反発力を推進力に変えるのはおかしい。禁止にするべきだ」との声もある。
「厚底は禁止になりませんよ」とスポーツメーカー関係者がこう続ける。
「15年に就任した世界陸連のセバスチャン・コー会長はそれまで、38年間もナイキ社の顧問を務め、年間報酬は約10万ポンド(約1520万円)だった。コー会長は、22年の世界陸上がナイキの本社がある米オレゴン州(ユージン)に決定したことにも関わった疑惑があり、記者に追及された。コー会長は国際オリンピック委員会の会長候補でもある実力者です。厚底は禁止になりません。よって、カーボンプレートを複数入れたり、反発力を強めるような違反は増えるのではないか」
厚底はマラソン界にとってプラスと言えるのだろうか。