北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「ふんわり穴子天」坂井希久子著
この連作集に「居酒屋ぜんや」というシリーズ名がつけられているのは、床几が1つに小上がりがあるだけのこぢんまりとしたこの店を舞台に人情話が展開するからだ。となると、年の離れた亭主に死なれ、亭主の姉と一…
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「Y先生と競馬」坪松博之著
Y先生とはもちろん山口瞳のことで、著者は「サントリークォータリー」の編集を担当した縁で(つまり山口瞳の後輩だ)、山口瞳と知り合い、競馬場に同行するようになる。その日々を回顧する書なので、男性自身シリ…
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「ヤマンタカ 大菩薩峠血風録」夢枕獏著
帯に「作家デビュー40周年記念作品」とある。筒井康隆が主宰する同人誌「ネオ・ヌル」に「カエルの死」を発表したのが1977年。この奇妙で新鮮な作品が、その年の「奇想天外」8月号に転載されてデビューとい…
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「ハンティング(上・下)」カリン・スローター著、鈴木美朋訳
連続殺人犯を追う警察小説である。女性を拷問し、肋骨を1本もぎとるという残虐な手口の殺人鬼を追い詰める捜査陣営の活躍を描いていくが、それだけなら昨今の翻訳ミステリーで珍しい話ではない。 この長…
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「クローバーナイト」辻村深月著
会計事務所に勤務する裕と、オーガニックコットンのブランドを立ち上げた志保は、大学時代、同じサークルで知り合って結婚した。ともに35歳。今では5歳の長女と2歳の長男がいる。 その4人家族の鶴峯…
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「突変世界 異境の水都」森岡浩之著
2014年に刊行された「突変」は超面白い小説だった。突変とは、「突然変移」の略で、地球上の一定区画が突然消滅し、異世界の地球の区画と入れ替わってしまうというもの。要するに、こちらの一定区画があちらに…
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「名もなき風たち」はらだみずき著
武井遼介が小学6年生の時点から始まった「サッカーボーイズ」シリーズは、とりあえず中学を卒業するまでの全5作で完結した。それを第1期とするなら、本書は第2期の開幕を告げる新シリーズの第1作である。主人…
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「タイムマシンでは、行けない明日」畑野智美著
高校生のあなたが初めてのデートの日、初恋の相手が目の前から永遠に消えた、とする。高校生のあなたは大学生になり、大学院に進み、初恋の人をまだ忘れられない。そのときにもしも、タイムマシンがあったらどうす…
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「ヘダップ!」三羽省吾著
サッカー小説である。ただし、舞台がJFLなので、これまでのサッカー小説とは少しだけ異色の展開になる。 主人公は高校を卒業してJFLのチームに入った桐山勇、18歳。J1の古豪チームから一度は内…
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「我ら荒野の七重奏」加納朋子著
出版社で働く山田陽子は、一人息子の陽介が中学に入ったのでこれで一息つけると最初は思う。小学校時代は親の負担が多くて大変だったが、もう中学生なんだからあんなことはあるまいと思うのが人情というものだ。と…
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「狼の領域」C・J・ボックス著 野口百合子訳
猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とするシリーズの最新作だが、いやあ、すごいぞ。これまでのベストは第4作「震える山」か、第8作「ゼロ以下の死」だと思っていたが、今回はその2作を超えたのではないか。ち…
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「大正十五年のヒコーキ野郎」長島要一著
リンドバーグがプロペラ機でニューヨークからパリへ飛び、大西洋単独無着陸飛行を達成したのは1927(昭和2)年だが、その前年、ヨーロッパと東京を往復飛行したデンマーク人がいた。本書は、その空の冒険行を…
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「虹を待つ彼女」逸木裕著
人工知能と会話をするアプリを研究している男がいる。その研究家・工藤が、死者を人工知能化するプロジェクトに参加するのがこの物語の真の始まりだ。 試作品のモデルに選んだのは、自殺した美貌のゲーム…
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「ヴェサリウスの秘密」ジョルディ・ヨブレギャット著、宮崎真紀訳
スペイン初の万博を目前に控えた19世紀末のバルセロナを舞台にしたミステリーである。主人公は3人。まず、父親の死の知らせを受けて故郷に戻ってきた大学教授ダニエル。その死を殺人と信じる新聞記者フレーシャ…
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「天晴れアヒルバス」山本幸久著
主人公・高松秀子の勤めるアヒルバスでは、バスガイドもツアー企画を提出する。「浅草で恋の花を咲かせましょう 三十代限定! 巡り逢いツアー」とか、「男を磨き鍛える! オジサマ限定エステ&うまいものツアー…
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「光炎の人」(上・下) 木内昇著
木内昇は2011年、「漂砂のうたう」で直木賞を受賞した作家だが、今回の舞台は明治。徳島の葉タバコ農家に生まれた音三郎の波乱に満ちた半生を描く長編である。音三郎は大阪に出て、東京に移り、最後は満州に渡…
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「終わりなき道」ジョン・ハート著 東野さやか訳
すべてが傑作、という作家はめったにいない。どんなに素晴らしい作家でも、やややと思う作品があったりする。ところが中には例外もあって、それが今回紹介するジョン・ハート。これまで翻訳された「キングの死」「…
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「励み場」青山文平著
青山文平の小説は、いつも刺激的だ。本書は、飢饉からの復興に尽力した功労者の人選に異議を唱える名主が現れ、調査のためにその村まで、勘定所に勤める普請役の伸郎が出掛けていく話である。それだけの話といって…
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「マシュマロ・ナイン」横関大著
高校野球小説である。ただし、かなり異色だ。なにしろナインの体重が全員100キロをオーバーしているのだ。中には130キロ、160キロというつわものまでいたりする。しかも全員が野球に素人。どうしてこんな…
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「手蹟指南所『薫風堂』」野口卓著
野口卓は、デビュー作「軍鶏侍」の作風から「朴訥で真っすぐ」とのイメージを抱きやすいが、その後の「ご隠居さん」シリーズや、「北町奉行所朽木組」シリーズなどを見ると、もっと幅広い作家であることがわかる。…