「名もなき風たち」はらだみずき著
武井遼介が小学6年生の時点から始まった「サッカーボーイズ」シリーズは、とりあえず中学を卒業するまでの全5作で完結した。それを第1期とするなら、本書は第2期の開幕を告げる新シリーズの第1作である。主人公は高校1年になった武井遼介だ。
遼介が入部したのは関東の強豪サッカー部で、1年生だけでも約50人。その1年生チームでも遼介はポジションを確保できない。サッカーが遼介よりもっとうまいやつはたくさんいるのだ。
小学校、中学校まではそこそこやっていた遼介も、強豪サッカー部に入ってみると無名の高校生なのである。そういう日々の中で、どういうふうにサッカーに向き合っていくのかを、本書は丁寧に描いていく。
「サッカーボーイズ」シリーズの第1作「再会のグラウンド」を覚えている読者なら、この作家がここまでうまくなっていることに驚かれるだろう。勝者だけが主役なのではない。脇役たちもまた、それぞれの人生においては主役なのである。その厳しい現実と、希望と夢を、はらだみずきはくっきりと描いていく。地味な話ではあるけれど、奥が深いと言い換えてもいい。
これまでの「サッカーボーイズ」シリーズを未読の方は、この第2期の開幕から読み始めればいい。そして本書が面白ければ、第1期にさかのぼっていけばいい。類いまれなスポーツ青春小説がいま目の前にあるのだ。(KADOKAWA 1400円+税)