「ヤマンタカ 大菩薩峠血風録」夢枕獏著
帯に「作家デビュー40周年記念作品」とある。筒井康隆が主宰する同人誌「ネオ・ヌル」に「カエルの死」を発表したのが1977年。この奇妙で新鮮な作品が、その年の「奇想天外」8月号に転載されてデビューというのが、夢枕獏誕生の瞬間である。時に26歳。あれからもう40年がたってしまったのかと思うと感慨深い。
その記念すべき作品は副題に「大菩薩峠血風録」とあるように、夢枕獏版「大菩薩峠」だ。これが面白い。
中里介山著「大菩薩峠」は実に不思議な小説である。全41巻の大長編だが、面白いのは最初の5巻だけ。この第5巻「龍神の巻」までは伝奇時代小説として面白いが、このあとは不思議な(厳しくいえば、でたらめな)小説になる。机龍之助は途中からいなくなってしまうし、最後はユートピア建設の話になるから構成が破綻しているといってもいい。
そこで夢枕獏は、本書で作り替える。中里介山版では冒頭すぐに机龍之助に斬られる宇津木文之丞を物語からなかなか退場させず、重要人物として引っ張ること。さらに性格まで作り替えてしまうから、えっ、宇津木文之丞ってこんな男だったのかと驚きだ。
その宇津木文之丞と机龍之助の剣の対決が白眉。こういう剣劇シーンを描くと夢枕獏の筆の勢いはいきいきと躍動する。重要なわき役として登場する土方歳三もいいし、中里版よりも本書のほうがはるかに面白い!(KADOKAWA 1800円+税)