「ヴェサリウスの秘密」ジョルディ・ヨブレギャット著、宮崎真紀訳
スペイン初の万博を目前に控えた19世紀末のバルセロナを舞台にしたミステリーである。主人公は3人。まず、父親の死の知らせを受けて故郷に戻ってきた大学教授ダニエル。その死を殺人と信じる新聞記者フレーシャ。かくてこの2人は事件の真相を調べていくことになるが、そこに絡んでくるのが謎の医学生パウ・ジルベルト。
実に盛りだくさんの小説である。ダニエルの父は若い女性の猟奇連続殺人事件を調べていた形跡があり、さらに父が残した手帳には、16世紀の解剖学者ヴェサリウスの大著「人体構造論」の幻の第8巻のことが言及され、不思議な暗号表が書かれていた。このヴェサリウスの幻の書が、物語の底流をずっと流れていく。一体、連続殺人事件とヴェサリウスはどう関係しているのか。
下水道の冒険、馬車での追跡劇と、激しい動きと場面転換の鮮やかさで読ませる箇所もあれば、地下住民が登場したりして謎はどんどん深まっていく。
謎解きに活劇に恋愛と、小説のさまざまな要素をえいっと全部放り込んでシェークしたような600ページに及ぶ長編だが、ラスト100ページが特に圧巻。そのラストにいたるまでも面白く、圧倒的に読ませるのだが、最後にギアが一段上がった感がある。
著者はバルセロナ在住のスペイン作家。これがデビュー作である。今後が期待できる新人作家の登場だ。(集英社 1100円+税)