「Y先生と競馬」坪松博之著
Y先生とはもちろん山口瞳のことで、著者は「サントリークォータリー」の編集を担当した縁で(つまり山口瞳の後輩だ)、山口瞳と知り合い、競馬場に同行するようになる。その日々を回顧する書なので、男性自身シリーズや「草競馬流浪記」などから、競馬に関する山口瞳の名言が次々に引用されているのが興味深い。
その一番は「旦那はギャンブルで儲けてはいけない。少し損するくらいがいい。ギャンブルで儲けるのは下品である」というものだ。自慢じゃないが私、競馬を始めて44年、いまだに一度も年間プラスになったことがない。正直に言うと、下品でもいいと思っているのだが、残念ながら下品になり切れていないというのが本音。
うれしかったのは、Y先生が500円のお釣りがくるように馬券を買うというくだり。
それで500円玉貯金をして、後日の競馬資金にするというのだが、私、まったく同じことをしているので、ここはうれしかった。
誤解が一つ解けたことも書いておく。実は山口瞳の競馬本に馴染めないことが一つあったのだ。どこの競馬場に行っても関係者席に入るというのはどんなものか、と思っていたのである。
ところが東京競馬場では1階スタンドの4コーナー寄りでいつもレース観戦していたという。関係者席に入るようになったのは、還暦を過ぎてからだったというのだ。途端に、Y先生に親近感を抱くのである。(本の雑誌社 2200円+税)