「虹を待つ彼女」逸木裕著
人工知能と会話をするアプリを研究している男がいる。その研究家・工藤が、死者を人工知能化するプロジェクトに参加するのがこの物語の真の始まりだ。
試作品のモデルに選んだのは、自殺した美貌のゲームクリエーター水科晴。彼女は6年前、自作のゲームとドローンを連携させ、自らを標的にして自殺した。なぜそんなことをしたのかと世間を騒がせた事件だが、その比類ない孤独に興味を持ったのがひとつ。もうひとつの理由はいまでもカルト的な人気があること。つまり話題性がある。
というわけで、その謎のヒロインがどういう人生を送っていたのか、その調査が始まっていく。人工知能化するには彼女が何を考えていたのかを知る必要があるからだ。完璧な人工知能をつくるためには、さまざまな人に会って、「水科晴」というヒロインを再構築しなければならない。
誤解をおそれずに言うならば、本書はそれだけの話だ。ところが、圧倒的に面白い。それは構成が群を抜いているからだ。水科晴に「雨」と呼ばれる恋人がいたこと、調査をやめなければ殺すと脅迫されること、そんなことをする女性には見えないのに水科晴が次々に男を代えていたこと――。
いくつもの謎が絡み合って、すべてが明らかになるラストになだれこんでいく。最後に立ち上がってくるヒロイン像が圧巻だ。
第36回横溝正史ミステリ大賞の受賞作である。(KADOKAWA 1600円+税)