「狼の領域」C・J・ボックス著 野口百合子訳
猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とするシリーズの最新作だが、いやあ、すごいぞ。これまでのベストは第4作「震える山」か、第8作「ゼロ以下の死」だと思っていたが、今回はその2作を超えたのではないか。ちなみに、本書はこのシリーズの第9作だが、これまでの作品を読んでなくても大丈夫なので安心して手に取られたい。
冒頭は、ジョー・ピケットが山の中で圧倒的な存在感をもつ双子の男と会う場面である。彼らは、肉体的にも強靱で、精神的にもタフな男たちであることがわかる。戦ったら負けるだろうとピケットは考える。問題はこの先で、しかしピケットは職務を遂行することを優先するのだ。自分のプライドを満たしながら男たちとの対決を避ける方法はいくらでもある。そちらを選ぶのが夫であり、父親である男の一般的な選択だろう。ところがピケットは、それを承知の上で、対決を選ぶのである。
冒頭のこの挿話の中に、本書のすべてがある。緊迫したクライマックスを見よ。双子の男たちとたった一人で対決するということは、死を覚悟するということだ。愛する妻と、愛する子供が、悲しむということだ。それでも、この男は死地に赴くのである。決して複雑な話ではない。というよりも、ものすごくシンプルな話といっていい。しかし、不自由な生き方しか選べないピケットの性格が、緊迫した物語を生み出している。傑作だ。(講談社 1000円+税)