「クローバーナイト」辻村深月著
会計事務所に勤務する裕と、オーガニックコットンのブランドを立ち上げた志保は、大学時代、同じサークルで知り合って結婚した。ともに35歳。今では5歳の長女と2歳の長男がいる。
その4人家族の鶴峯家を描く連作集だが、まず、わが子を保育園に入れるのがいかに難しいか、具体的に、徹底的に語られる。いやはや、こんなに大変であるとは知りませんでした。「保活」という言葉があるということだけでも驚くが、こんなものではない。次は、幼稚園問題だ。1ケタ台の受験番号をもらうために夜中の12時から並ぶとか(1ケタ台のほうがそれだけ熱意があると見られるんだって)、とにかくすごい世界なのである。
さらにママ友との付き合いは面倒くさいし、お誕生会に誰を呼ぶとか呼ばないとかの問題もある。孫の教育に口を挟んでくる祖父母の問題だってある。わが子を育てるというのはホントに大変なのだ。
四つ葉のクローバーの形に4枚、小さな写真が入るようになっている写真立てを前に、裕と志保が会話する場面が、初めのほうに出てくる。
核家族にはこういうクローバー形の写真立てがよく似合うと思うくだりだが、「親って、このクローバー形の幸せを守る門番か騎士みたいなもんだよ」と裕は言う。
新米ナイトの裕が右往左往しながら鶴峯家を守るために奮闘する姿を、辻村深月は鮮やかに描いている。傑作だ。(光文社 1400円+税)