「タイムマシンでは、行けない明日」畑野智美著
高校生のあなたが初めてのデートの日、初恋の相手が目の前から永遠に消えた、とする。高校生のあなたは大学生になり、大学院に進み、初恋の人をまだ忘れられない。そのときにもしも、タイムマシンがあったらどうする? 過去に戻って、あの日に戻って、もう一度最初からやり直したいと思わないだろうか。本書の主人公丹羽光二は、かくて過去に戻っていく。
作者の畑野智美は「国道沿いのファミレス」で小説すばる新人賞を受賞した作家で、「夏のバスプール」「海の見える街」など、青春小説に定評がある。つまりSF作家というわけではない。そういう作家がタイムトラベル小説を書くのかと驚かれる読者もいるかもしれないが、畑野智美は2年前に「ふたつの星とタイムマシン」という連作集を出している。
実は本書と、その「ふたつの星とタイムマシン」(ちょうど文庫化されたばかりだ)は登場人物がダブっているだけでなく、互いを補っていたりするから、こういう過去があったのかとか、いろいろ発見があって、併せて読むと大変に面白い。念のために書いておくと、どちらを先に読んでもいい。
タイムトラベル小説は数多く、近年ではスティーヴン・キング「11/22/63」という超傑作がある。我が国にも広瀬正の名作「マイナス・ゼロ」という傑作があるが、そういうタイムトラベルものが好きな方に、ぜひ本書をお薦めしたい。(集英社 1900円+税)