推しの実刑に心壊された同志女子たちの声を求めて

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 オタクという言葉が出てきたのは40年も昔だが、当初の陰気な影は既にない。いまでは多数の亜種も登場、そのひとつが「推し活」だ。この奇妙な関係をめぐる韓国のドキュメンタリーが現在公開中の「成功したオタク」である。

 推し活の対象はKポップアイドル。ところがすべてを懸けて追っかけてきた男性アイドルが陰湿な性暴力の加害者だったことが判明、実刑が確定してしまう。パニックに陥った推し活女子たち。醜聞の内容が明らかになると自分の心を壊された思いをかこつ。

 その心情をカメラの前で縷々吐露したのがオ・セヨン。本作の監督だが、これが初作品。事件当時はまだ大学の映画学科を出てまもなかったらしい。

 が、思いこんだら命懸けが推し活のオタクなところ。韓国各地にいる同じ立場の女子たちを探し出し、連絡して会いに出かける。そのさまを逐一動画に撮って映画にまで仕上げてしまった。

 封切り後、話題を呼んで公開館が増えたというからその情熱のほどが知れるだろう。自分で自分を取材するという点では、かつてマクドナルドを自分で食べまくった「スーパーサイズ・ミー」と同種のセルフドキュメンタリーだが、あれは少なくともプロの仕事。こっちは駆け出し以前の新人が一途な思いだけで劇場公開作にまでしてしまったのだ。

 ジャック・ハルバースタム著「失敗のクィアアート」(藤本一勇訳 岩波書店 3960円)はLGBTQについての難解な理論を「チキンラン」や「トイ・ストーリー」などの子どもアニメから制服フェチまでに応用した文化論だ。

「クィア」はLGBTの侮蔑語だが、近年はこれを逆手にとった自称や批判理論の概念になった。生まれながらにアナーキーな子ども。ナチの制服に欲望するゲイ。種々の分析が確かに推し活やオタクの心情に通底する。人はみなクィア、人類はみな兄弟姉妹? <生井英考>

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