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野地秩嘉ノンフィクション作家

1957年、東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務などを経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュや食、芸術、文化など幅広い分野で執筆。著書に「サービスの達人たち」「サービスの天才たち」『キャンティ物語』「ビートルズを呼んだ男」などがある。「TOKYOオリンピック物語」でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。

<第14回>主役を“食った”三木のり平演じる「屋台の客」

公開日: 更新日:

 さて、見どころである。多くの映画評論家は指摘しないだろうけれど、私にとって「あ・うん」の素晴らしさはたったひとつのシーンに集約される。DVDを見た時も、そのシーンばかり何度も繰り返して見たくらいだ。

 それは、スリの役、三木のり平と高倉健が屋台で酒を飲み、おでんを食べながら話をするシーンである。高倉は偶然、知り合った三木のり平に自分がいかに戦友の妻に惚れているかを打ち明けてしまう。三木のり平は食べたり飲んだりに夢中になりながらも、高倉に的確なアドバイスをする。

 もう友達の妻と会うのはよそうと思っている高倉に対して、「会え、会え。会わないのはいつだって決められるぜ」とうそぶく。その言葉を聞いた高倉健はそれを言ってもらうことでホッとして、機嫌が良くなる。その隙に三木のり平は財布をすり取ってしまうのだが……。

 高倉健と共演した相手はどんな役者でも意識してしまう。森繁久弥、吉永小百合ビートたけし田中裕子……。誰でも高倉健を視野に入れながら芝居をするのだが、三木のり平はまったく高倉健を意識していない。

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