永瀬正敏主演の台湾映画「KANO」 ヒットの背景は?
戦前の日本統治下の台湾で、甲子園を目指す高校生を描いた台湾映画がヒットしている。「KANO 1931海の向こうの甲子園」だ。
全国60スクリーン足らずの小規模公開ながら、スタート2日間で2000万円近くの興収を上げた。これは先週公開された新作の中で3位の好成績だ。上映時間が3時間を超える作品で、これはすごい。
台湾にやってきた永瀬正敏(写真)扮する日本人の監督が、日本人や漢民族、先住民らで構成される弱小野球部を、甲子園で活躍するチームに鍛え上げていく実話の映画化だ。劇場に足を運んでいるのは年配者で男性が多いが、女性も目につく。やはりこういう題材に気持ちが動くらしい。
実は本作は昨年の台湾の映画界でもっともヒットした作品である。台湾の人にも同国の歴史と野球という組み合わせは魅力的だったのだろう。ちなみに、日本統治下の台湾を舞台にした作品が同国でヒットするケースは結構多いのである。
ところで、「KANO」はカナダの野球リーグで日系チームが活躍する姿を描いている「バンクーバーの朝日」の逆バージョンともいえる。ともに差別や逆境のもと、人々が野球で一致団結し、閉塞感漂う生活環境や社会構造に何らかの風穴をあけていく点で共通している。
こういった題材に、多くの庶民に身近な野球が取り上げられているのが何とも興味深い。見方を変えれば野球は人々の郷愁を語り継ぐ時に一段と輝くスポーツともいえようか。
(映画ジャーナリスト・大高宏雄)