役者の道ためらう加藤頼の背中を押した父・加藤剛の一言
みなさんが父に抱くのは、自宅でも和服を着て正座をしているようなイメージかもしれません。でも、そんなことはなくて、喜劇が大好きで時々冗談を言ったりする。堅苦しい人ではありません。
父との初舞台は10歳の時。将来役者になるからということではなく、学校が休みの時にたまたま、父の主演舞台に子役で出たんです。俳優座で“わが愛3部作”と呼んでいる山本有三の「波」と夏目漱石の「門」「心」は父の代表作ですが、その時は紀伊国屋ホールを1カ月借り切って一挙にやったんです。僕は父と出られるという楽しさだけでやっていた記憶があります。
■「役者にはならない方がいい」と言われ
役者になるかどうかは迷いました。20歳くらいの時に「どういう仕事をやっていこうと思っているんだ」と聞かれ、役者に興味があったので素直に言いたかったのですが、黙っていたら、「おまえの責任で決めることだけど、役者はやめた方がいいぞ」と。「つらい世界だ」と言いたかったみたいですね。
これまで怒られたことは一度もないし、僕には反抗期もなかった。だから人が父親とぶつかるというのがよくわからないけど、「役者にはならない方がいい」と言われた時は「やる」と言い出すことができなかった。同じ劇団で今も一緒の舞台に立って父の姿を見ていると、父の言いたかったことがわかります。役者は一生、自分のやっていることに満足できず、疑問を持ち続けて成長しなければいけない――。「決断のいる仕事だぞ」と言いたかったのだと思います。