ただの食ドラマにあらず 伊原剛志「ヤッさん」が醸す人情
主人公の設定が秀逸だ。テレビ東京系のドラマ「ヤッさん~築地発!おいしい事件簿」である。
ヤッさん(伊原剛志)はホームレスだが、銀座の高級店で賄い飯をごちそうになる。また築地市場の仲買人とも対等だ。食の知識が豊富で料理の腕も一流。築地と銀座を結ぶ隠れコーディネーターのような存在なのだ。
IT企業から落ちこぼれ、宿無しだったタカオ(柄本佑)は、ヤッさんに拾われて弟子になった。このドラマは、異色のホームレス2人が、築地や銀座で起こる事件を解決していく物語だ。個人の洋食店を乗っ取ろうとする悪徳外食グループと戦ったり、世代交代に悩む築地の人たちのために一役買ったりと忙しい。
人としての矜持を持ち、ホームレスという生き方を選んだヤッさん。困っている人を、「ありきたりな身の上話なんか聞きたくねえ」と言って、ある距離感を保ちながら助ける姿勢も好ましい。確かに、「どん底に落ちた人間を救うのは人とうまいメシ」かもしれない。一見、いわゆる食ドラマを思わせるが、実は脚本も含め、丁寧に作られた人情ドラマなのである。
脇役陣も2人をしっかり支えている。ヤッさんを応援するそば屋の主人(里見浩太朗)、ヤッさんを慕う韓国料理店主(板谷由夏)、そば職人を目指す女子高生(堀北真希に似た山本舞香)など、それぞれに適役だ。