海老蔵と息ぴったり 寺島しのぶ“歌舞伎女優誕生”の瞬間
「六本木歌舞伎」と銘打たれた市川海老蔵(39)・寺島しのぶ(44)主演「座頭市」(リリー・フランキー脚本、三池崇史演出)は、「歌舞伎女優が誕生した」という意味で、歴史に残る公演になるかもしれない。「女優が歌舞伎に出ている」という次元ではないのだ。
歌舞伎は男性が女性の役も演じる「男だけの世界」だ。たとえ名優の子として生まれても女性は歌舞伎役者にはなれない。それゆえに、歌舞伎役者の家に生まれ、歌舞伎が大好きな少女だったのに、寺島しのぶは歌舞伎を断念して、新劇の文学座に入った(4年で退団)。その無念さが秘めたエネルギーとなって静かに燃えている。
寺島は早変わりの2役など、歌舞伎独特の演技パターンを自然にこなす。コクーン歌舞伎や猿之助の公演などに歌舞伎以外の俳優が出ることがあるが、そこで感じる「よそ者感」がまるでない。歌舞伎が自分のものとなっている。これだけの女優を歌舞伎が使わないのはもったいない。少なくとも、この「六本木歌舞伎」には毎回出てほしいものだ。
海老蔵演じる座頭市は、勝新太郎の映画でおなじみのキャラクターを踏襲しているが、観客の大半は「勝新の座頭市」を知らない世代だと割り切っているようで、とくに似せようとはしていない。勝の座頭市は唯一無二のものなので、それで正解だ。海老蔵といえば「睨み」であり、その目力が売り物だが、盲目の役なので目力を封印して挑む。当然、抑制された演技となり、家の芸である荒事のパワー全開とはいかないが、シャープな立ち回りを見せる。その一方で海老蔵のユーモラスな面とやさしさとが、いつになく出ていた。