舞台復帰の中村福助「芸には厳しいが人には優しい」を象徴
7月、8月の歌舞伎座は若手が中心で新作も多かったせいもあり、古典が多く、吉右衛門がしっかりつとめる今月は、久しぶりに歌舞伎らしい歌舞伎を見た気分になる。
話題は中村福助の5年ぶりの復帰だ。「祇園祭礼信仰記 金閣寺」のラスト近くに、慶寿院尼の役で出た。座ったままで、3つのセリフを言うだけだが、場内はわれんばかりの拍手だった。福助は14年3月に中村歌右衛門を七代目として襲名することになっていたが、その前の13年11月の公演途中で降板し、以後、公の場には出ていなかった。当然、歌右衛門襲名は延期となったままだ。
歌舞伎が他の演劇と違うのが、「芸には厳しいが、ひとにはやさしい」というところだ。若手や中堅世代が主役に抜擢された場合は、父や先輩と比較して芸の未熟さが指摘される。それでいて、病気やけがから復帰した役者には、その状態が万全ではなくても、演技がどうであれ、復帰したことが評価される。大幹部の子や孫の初舞台を、立っているだけなのに拍手喝采するのも、近代以降の演劇論・演技論では説明できない。少なくとも、新劇ではありえない。