舞台復帰の中村福助「芸には厳しいが人には優しい」を象徴
役者の背景や置かれている状況を知らないと、なぜこの場面であんなに大きな拍手になるのか分からないだろう。これは批判しているのではない。このわけの分からなさこそが歌舞伎の魅力のひとつなのだ。ストーリーやセリフの難解さよりも、この役者と観客を包む雰囲気こそが、歌舞伎を見るにあたっていちばん理解しづらい。
「金閣寺」は福助の長男である児太郎が初役で、女形の大役の「雪姫」を演じている。美しさと意志の強さ、そして悲劇性を見事に表現していた。父・福助が倒れてからの児太郎の成長は著しい。彼は素顔は美少年タイプではないが、舞台では美しい女性になれる。悪役の松永大膳は尾上松緑で、実質的な主役を堂々とつめていた。
先月は新橋演舞場の新作歌舞伎「NARUTO」で主役だった中村隼人が、今月の歌舞伎座では脇役のひとり。襲名披露公演では大役ばかりをつとめている松本幸四郎も、今月の歌舞伎座では、主役もあるが、脇役も演じている。いったんスターになっても脇役に戻り修業の身となる、こういう配役も歌舞伎独特といえる。
(作家・中川右介)