「暗殺のオペラ」ムッソリーニと戦った亡父は誰に殺された
物語は現在と過去を往復しながら、父アトスの死の真相に近づいていく。同時に民衆が不審な動きを見せ、暗殺の裏に複雑な事情があることを暗示。物語の本質は英雄伝説の裏に虚構が潜んでいるということだ。
本作の怖いのは英雄の実像が小心者で、3人の同志だけでなく、町の人々が真相を知りながら伝説を信奉していること。一種の集団心理だろう。
こうしたみんなでダマされる心理は村落共同体によくある。映画「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」(13年)も同じ。問題のぶどう酒を売った女性も買った村人も、その村人と会った別の女性も事実が歪められたことを認識している。他の村民たちも同じだろう。だが人は不合理な供述を信じてしまう。
本作はラストがポイントだ。先ほどまできれいだった線路が雑草に埋め尽くされたのは駅が稼働していないことを示している。老人が守る亡霊の町――。だから若いころの登場人物がいまと同じ老け方なのだろう。 (森田健司)