<8>大家さんに「誰の弟子なの」と問い詰められとっさに…
歌吾(4代目円歌の前座名)は円歌夫人の和子さんに可愛がられた。ある時、こんなことを言われた。「あたし、一度流産してるの。もし生まれてたら、おまえぐらいの年頃になってたはずだよ」と。
「そんなこともあって可愛がってくださったんでしょう。『おまえが二つ目に昇進する時は、紋付き袴一式をあたしがあつらえてあげるからね』と言ったのを当てにして、まるでお金を貯めてませんでした。おかみさんが末期がんで亡くなった時、悲しい上に、紋付き袴はどうしようと心配になりました。あつらえるお金を貯めてなかったんです」
前座になって4年目、二つ目に昇進して、三遊亭きん歌と改名する。紋付き袴の代金は叔母夫婦の援助を受けた。
「いつまでも叔母の家にやっかいになってるわけにいかないので、アパートを借りました。西川口駅から歩いて3分。善兵衛荘という名前で、家賃が1万1000円と格安です。大家さんにわけを聞いたら、その部屋でガス自殺があって、以来アパート全体のガスを止めてると言う。ゴミ捨て場にあった電気コンロを拾ってきたら使えたので、それで湯を沸かしました」