<3>遺品の時計の修理に50万かかると知った時に師匠の声が
歌之介が師匠の形見分けでもらった遺品の中に、高価な物が2つあった。ひとつはクリソベリル・キャッツアイの指輪である。
「私の指に合うように、宝石屋さんでリングを継ぎ足して広げてもらいました。『クリーニングはしてますか』と聞かれたんで、『師匠が時々台所でママレモンで洗ってました』と答えたら笑われました。今では私の指にはまるようになってます。博多の料理屋のカウンターで、その指輪をはめて飲んでたら、近くにいた顔の怖いその筋の方が目ざとく見つけて、『いい指輪はめてるね』とうらやましげに眺めてる。隣に愛人の女性がいて、彼女に見せてやってくれと頼まれたので指輪を渡すと、彼女がはめて、『あたしにピッタリ』だって。慌てて取り返しました」
もうひとつの高級品は時計だった。
「スイス製のオーデマ・ピゲです。晩年、師匠が愛用していた物で、高座に上がる前に、『持ってろ』と指輪と一緒に渡されると、楽屋の師匠方に、『なくすなよ。それ両方で1000万円だぞ』と脅かされたものです。手巻きでして、壊れていて動かない。修理するにはスイスの本社に送らないといけないので50万円くらいかかると時計屋に言われ、そんなにかかるんだったら使わずに置いておこうと思ったんです。ところが、『4代目円歌を継ぐやつが50万くらい出せないのか』という師匠の声が聞こえたような気がしましてね。修理費を惜しまずスイスに送って直してもらいました」