<8>大家さんに「誰の弟子なの」と問い詰められとっさに…
二つ目になってすぐは、お披露目でどこの寄席にも10日間出られる。それが終わると、たいていの者はばったり仕事が来なくなり、前座時代よりも生活が苦しくなるのが常だ。きん歌もたちまち困窮した。家賃が払えない。
「なんと、9カ月も滞納しました。大家さんの催促も厳しくなって、『あんた、落語家だって言うけど、誰の弟子なの』と問い詰められたので、とっさに『円楽です』とウソをつきました(笑い)。いくらなんでもこれ以上滞納できないと、アパートで落語会を開くことを思いついたんです」
老朽建築の善兵衛荘は、廊下が広いことだけが取りえである。きん歌はそこに目を付けた。
「この廊下に客を座らせれば100人は入るだろうと。1人1000円の入場料にして100人で10万円、9カ月分の家賃が払える皮算用です。払ったらアパートを出るつもりで、『さよなら善兵衛荘』という会にしました。円丈師匠に話したら、『アパートの廊下で落語会なんて面白いじゃない。俺、出るよ』と言ってくれたんです。急いでチラシを作り、知り合いと近所の人たちに配りました」