「少年H」水谷豊演じる主人公の父が子に諭す戦争の愚かさ
本作に描かれているのは軍部と官憲が国民を弾圧する「暗黒郷」だ。インテリの銀行員までが「お国のために」と戦争を礼賛。国民は軍部の嘘をうのみにし、憲兵と特高に怯える社会を自ら生み出した。盛夫はその危うさを淡々と語り、「いま何が起きてるんか、自分の目でよう見とくんや」と息子に教える。
かくして敗戦に至る。民主主義の到来で人の心は劇的に変化。銀行員は米兵に媚びを売り、Hを痛めつけた軍人は共産党の演説に拍手を送る。変わり身の早さはまるでコメディーだが、これは歴史的事実だ。
体制側にいた烏合の衆が無邪気に宗旨変えする中、Hと盛夫は逆に悩み始める。戦時下の社会を疑問視していた者が戦後、人生哲学に苦しむという皮肉が本作の見どころ。それは現代の我々にも「歴史は繰り返す」の教訓とともにいずれ降りかかってくる問題だろう。安倍晋三の嘘で国民が集団催眠に陥っている今こそ、盛夫が言うように自分の目でしっかりと現実を見ておきたい。
(森田健司/日刊ゲンダイ)