艶やかな「地獄門」故・京マチ子さんが演じる悲しき献身愛
1953年 衣笠貞之助監督
京マチ子が亡くなった(享年95)。出演作の「羅生門」(1950年)、「雨月物語」(53年)が国際的な映画賞を獲得、本作はカンヌ国際映画祭グランプリに輝いた。「鍵」(59年)では白い柔肌を、「他人の顔」(66年)では乳首を披露。本物の大女優だった。
源義朝らが平家の転覆をはかった平治の乱。焼き打ちされた御所から上西門院を救うため、袈裟(京)という女が身代わりを務める。警護の遠藤武者盛遠(長谷川一夫)はその美しさに魅せられ、論功行賞で平清盛に褒美に何が欲しいかと聞かれて袈裟を所望。だが袈裟は御所の侍・渡辺渡(山形勲)の妻だった。
諦めきれない盛遠は袈裟の叔母を脅して彼女を呼び出し、「自分のものにならなければ夫の渡を殺す」と脅す。やむなく承諾した袈裟は盛遠に屋敷に忍び込んで夫を殺すよう頼むのだった……。
日本初のイーストマン・カラーによる装束の艶やかさ、平安女性の所作の美しさなど絢爛(けんらん)豪華の映像。タイトルの「地獄門」は「羅生門」にあやかってつけられた。
男が他人の妻に懸想するのは永遠の文学的テーマだ。天智天皇は弟から額田王を奪い、夏目漱石の「それから」の主人公は親友の妻に恋慕した。ダビデ王は配下の兵士ウリヤの妻を妊娠させたあげく、彼を最前線に送り込んで戦死させた。