“閉じてる”俳優・岡山天音「中学生日記」から始まった進化
「あまね」という美しい音の名前を持つ岡山天音(25)は勢いのある若手俳優だ。今年で役者歴10年、底光りする表情と演技で確実にキャリアを積んでいるが、その経歴はちょっぴり変わっている。
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デビュー作は2009年8月29日放送の「中学生日記」。1962年にスタートした前身の「中学生次郎」から2012年まで、半世紀にわたってNHK教育(現・Eテレ)で放送された学園ドラマだ。時代ごとの教育問題を色濃く映し、タブーにも切り込んでいるが、「脚本も監督も毎回のように違う。作風のテイストもまちまちなんです。ただ、画面から伝わる空気感みたいなものが好きでよく見ていました」。
NHK名古屋放送局が手がけ、生徒役は基本、名古屋近郊在住の現役中学生だったが、全国オーディションが行われた際に見事合格。演技経験ゼロで同回の主役の座を射止め、本名の岡山天音役で出演した。
だが、すでに番組の人気や勢いに陰りが出ていた頃である。役者の第一歩としては。渋い選択となった。
「はじめから役者になりたかったわけではないんですが、普通の中学生からしたらとても非日常的な空間で、とにかく楽しかったんです。夏休みを利用して東京から名古屋に行き、泊まり込みで撮影しました。大人たちがたくさん集まる現場にお邪魔して、言われるがままに動いて褒めてもらえる。どちらかというと学校は苦手なタイプで、シンプルに楽しいって感じられる空間が心地よかったんです。これはもう夏休みだけで終わらせたくないな、って。続けるには事務所に所属しないといけない。次の機会にも恵まれないって分かったので、オーディション雑誌で捜しまくって、いまの事務所に入ったんです」
■オーディションの落選は100回以上
晴れて役者の道へ進むことになったが、出演2作目となるオムニバス映画「犬とあなたの物語 いぬのえいが」の公開は、中学生日記出演の2年後。「ぜんっぜんオーディションが受からなかった」と、バツが悪そうに振り返る。
「事務所に入れたのだから運が良い方だと思うんですが、その後がきつかったですね。演技の基本も分かってないから、オーディションは100回以上は落ちたと思います。もはや受かるっていう概念さえなくて、“えっ、受かることなんてあるんだ!”みたいな。いま思えば、惰性で受けていたこともあったように思います」
それでも腐らずにコツコツとキャリアを積み上げ、印象に残る役を演じるようになった。今年1月期のドラマ「デザイナー 渋井直人の休日」(テレビ東京)では光石研演じるデザイナーのアシスタント役で存在感を発揮。20代男性俳優の出演作品数ランキングでは13作品で4位(「日経エンタテインメント!」9月号)にランクインしている。
13日には主演映画「王様になれ」(太秦配給)が公開。根強いファンやフォロワーを持つロックバンド「the pillows(ザ・ピロウズ)」の結成30年を記念した作品だ。カメラマン志望の青年の恋模様をバンドの楽曲が彩る青春物語に仕上がっている。主人公の神津祐介を演じる岡山にとっては、長編作品で初の単独主演作。さぞ意気込んで撮影に臨んだかと思いきや、「実は(単独主演作だと)さっき知りました」と苦笑いする。他媒体の取材で指摘され、初めて意識したという。
「そんなんだから、良くも悪くも変な気負いとかはなかったんです。主人公の祐介と僕は性格も境遇も違うのですが、祐介の感情や葛藤みたいなものはこれまでに経験した覚えのあるものでした」
売れっ子カメラマンとして活躍する学生時代の同期に遅れを取り、何者でもない自分に苛立つシーンが描かれる。岡山自身、オーディションに落ちまくる経験を経たから、共感することもあるのだろう。
■親友・山崎賢人の存在
“同期”らしき相手も存在する。12年公開の映画「Another」で共演して以来、“仲が良すぎる同い年俳優”としてメディアでも取り上げられた山崎賢人(25)だ。デビュー当初から主役級の配役で活動し続けている親友についてどう思っているのだろうか。
「賢人と知り合ったのは、僕が事務所に入ったぐらいの頃です。キャラとか立ち位置が違うので、同じ役を競うことはそうそうありません。でも、最初はめっちゃ悔しかったし、いまでも悔しいと思うことがあります。ただ、昔の悔しさとは違いますね。仕事がないときってやることがないので、誰かの活動や出演情報をキャッチしやすいんです。それを自分と比べて落ち込んだりしていたと思います。ありがたいことにいまはやらなければいけない没頭できる場所を与えられ、僕なりにクリアにしなければならないものもある。それで悔しいという感情も、嫉妬や焦りに乗っ取られないというか……。あいつも頑張ってんだから、負けないように頑張らなきゃなっていう感覚に近いですね」
■次は朝ドラヒロインの相手役…?
そんな俳優・岡山天音の良き理解者で、“ファン第1号”でもあるのが母親だ。彼女を最も喜ばせたのは、NHK朝ドラ「ひよっこ」(17年)の出演だという。この時はヒロインの相手役ではなかったが、今後もステップアップしていく中で、そんな役を演じることもあるかもしれない。もっとも本人は、「怖くてなんにも言えないっす」と控えめだ。関心がないようにも映るが、しばらくすると丁寧に言葉を選び始めた。
「進化はしていたいんです。いまはそれができているかどうかもよく分からなくって、俳優を始めた頃との明確な違いを肌で感じられているわけではないんです。このまま40代ぐらいを迎えると、劣化したり退化したりするパターンもあるわけで、そうならないために、自分を安心させられるように進化していたい。あと、25にもなってなんですが、もうちょっと協調性を身につけたいです。周りからなぜか『閉じてる』って言われることが多くて……」
謙虚で真摯、それでいて性格もちょっぴり変わっている。ただしこれは役者として必要な要素かもしれない。
(取材・文=小川泰加/日刊ゲンダイ)