NHK「少年寅次郎」脚本の岡田恵和がつむぐ“母と子の物語”
昭和11年2月の寒い夜、葛飾柴又の団子屋「くるまや」の前に、一人の赤ん坊が置かれる。この家の主は、車平造(毎熊克哉)。この赤子が寅次郎だ。妻の光子(井上真央)は自分たちで育てることを決意する。
NHK土曜ドラマ「少年寅次郎」(全5回)で、まず見入ってしまうのは、「寅次郎の母」を超えて「ニッポンの母」と呼びたくなるような、井上の繊細で的確な演技だ。
お見合いで団子屋に嫁ぎ、道楽者の亭主、病弱な長男、義父(きたろう)の面倒を見てきた。血のつながらない寅次郎を息子として可愛がり、やがて「日本一の妹」さくらを産む。その凜(りん)とした美しさ。やさしさ。さらに筋の通った厳しさと愛情深さは、後年の寅さんが惚れる女性たちの「原像」といっていい。
やがて夫の平造が出征し、長男も病死してしまうのだが、光子は気丈に残された家族を守り抜く。印象的なのは昭和20年3月、東京大空襲の場面。燃える下町を眺めていて朝帰りした寅次郎を、光子は「死んだと思った」と泣きながら叱るのだ。5歳から小学生時代までの寅を演じる子役の藤原颯音も、「どこから見つけてきたの?」と聞きたくなるほど、渥美清の寅さんにそっくり。いたずら好きで勉強嫌い。でも友達思いのいいやつだ。いつの間にか映画の存在も忘れ、脚本の岡田恵和がつむぐ「母と子の物語」にクギづけである。