朝ドラ「スカーレット」を包み込む富田靖子“昭和のオーラ”
と言っても、女優としての実力は誰もが認めるところ。90年に、つかこうへい演出の二人芝居の舞台「飛竜伝90 殺戮の秋」の演技が評価され、昨年の主演舞台「母と暮せば」では、朝ドラで共演中の松下洸平とも共演した。原爆で亡くなった息子が、一人で生きる母親を心配して亡霊となって出てきて二人で語り合うという芝居で、富田は、和服姿に白髪まじりで少し病弱な雰囲気も漂わせながらも、健気に一人で生きる母親役を演じた。
■松嶋菜々子との違い
そこで思い出されるのが、「スカーレット」の第1話での登場シーンだ。リヤカーを押す常治とマツ、そして三人の幼い娘たち。琵琶湖を前に赤ん坊を抱えたマツが登場する。
「正直、ものすごく驚きました。マツは終戦直後の貧しい一家で3人の子供を抱えた母親ですから服装もみすぼらしく、髪型や化粧に気を使う暇も余裕もない。と言ってもドラマです。ベテラン女優さんなのでそれっぽいメイクはしても、本当にみすぼらしく見える格好はほとんどしません。しかし、富田さんは本当に全くメイクをしていないかのように見えました。目が落ち窪み、肌の張りもなく、髪もパサついている。つまり、ちゃんとやつれていて、見ていて本当に心配になるほどでした。前回の『なつぞら』も終戦直後の北海道のシーンから始まりましたが、開拓民の娘役でありながらツルッツルの美肌で登場した松嶋菜々子さん(46)とは役者が違うと思いました。こういう演技ができる女優さんになったのも、これまで苦労を重ねてきた女優人生がしっかり糧になっているのでしょう」(前出・弘世一紀氏)
最初の頃は個性の強い夫と3人の娘の世話でクタクタになっていたのが、ときに力の抜けた笑いを交えながら3人の娘の成長とともに娘たちに力を与えてもらいながらどんどん強くなっていく。そんな富田が日に日にたくましく美しく見えてくるのも、彼女の演技力がすごすぎるからに違いない。