著者のコラム一覧
本多正識漫才作家

1958年、大阪府生まれ。漫才作家。オール阪神・巨人の漫才台本をはじめ、テレビ、ラジオ、新喜劇などの台本を執筆。また吉本NSCの名物講師で、1万人以上の芸人志望生を指導。「素顔の岡村隆史」(ヨシモトブックス)、「笑おうね生きようね いじめられ体験乗り越えて」(小学館)などの著書がある。新著「1秒で答えをつくる力──お笑い芸人が学ぶ『切り返し』のプロになる48の技術」(ダイヤモンド社)が発売中。

辻本茂雄は歩けないほどの腰痛でも90分間舞台に立ち続けた

公開日: 更新日:

 私の本職は漫才作家ですが、吉本新喜劇の脚本も通常公演用60本と全国ツアーを1本だけ書かせてもらったことがあります。その全国ツアーは辻本君の大人気キャラクター「茂造じいさん」が登場するものでした。

 初日の公演が岐阜県内のホールで行われ、私もリハーサルやセットづくりのために前日に現地に入りし、リハーサルを終えると……座長(当時)で主役の辻本君が、立っているのも難しいほどの腰痛に襲われたのです。すぐに救急病院へ向かい、応急処置に痛み止めの注射を患部に数本打ってもらい、ホテルへ戻ってきました。辻本君は「なんとかなると思います」という返事でしたが、その顔は苦痛にゆがみ、並大抵の痛みではないことが伝わりました。

 辻本君の笑いへのこだわりは人一倍強く、一つでも多くの、少しでも大きい笑いを取ることをいつも考えているので、このアクシデントは“思い通りにできないかもしれない”という大きな不安材料だったと思います。

 翌日、痛み止めを飲み、腰をコルセットでガチガチに固めてマネジャーの肩を借りて歩く辻本君。芝居の流れのチェックをする時も本番に備えて動くことを極力控えて舞台での立ち位置だけを確認。あえて「大丈夫?」とは聞きませんでした。開演を前に「やりきるんだ」という決意の漂う表情の辻本君を袖に残して、私は終演後のダメ出しをするために緞帳が上がる前に客席の後ろに移動して、立ってメモを取りながら舞台を見ていました。

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