東野幸治は芸歴35年「令和の芸人論」を語り尽くした
今回のゲストは東野幸治さん(53)。芸歴35年。テレビで見ない日はない人気芸人は今、テレビ業界やお笑い界について何を思うのか。東野さんに令和の芸人論を訊く!
原田「今日は東野さんに『令和の芸人論』について伺おうと思います。はやり廃りが激しい芸能界ですが最近の芸人やテレビ業界については、どんな印象をお持ちですか」
東野「今がいろんな意味でターニングポイントだと思っています。テレビとネットのすみ分けの過渡期ですよね。これまでは、テレビで人気が出て売れっ子になって、冠番組を持つことが芸人の目指すべき王道でした。でも今はYouTubeとか新しいメディアが出てきてテレビだけが目標ではなくなってきた。例えばNSC(吉本総合芸能学院)の生徒なのに最初からYouTube登録者数が10万人以上いるとか」
原田「デビュー前なのに?」
東野「そうなんです。NSCを卒業して、いざ芸人になったときに、もし登録者数が50万人になってたら事務所に所属する意味って何だろうって思っちゃいますよね」
原田「昭和世代としては『けしからん!』とかにはなりません?(笑い)」
東野「ぜんぜん(笑い)。すべてのことが変わりつつあるので今後が楽しみですよ。この流れは止まらないとも思いますし」
原田「吉本興業を辞めて独自の道に進む芸人も増えています。キングコングの西野亮廣さんやオリエンタルラジオの中田敦彦さんらについては?」
東野「アッパレだと思いますよ。吉本にはたくさんの芸人がいます。同じことをやっても頭ひとつ抜け出すのは難しい。そう自分で判断して別のステージに行くのもある意味、勇気がいることだと思うんです。僕なんて吉本という家があって入ってみたら居心地ええなと思って、そこでのんびりしているだけですから(笑い)」
原田「西野さんなんてオンラインサロンで十分稼げているから、テレビに出なくてもいいそうですね。事務所に所属しなくても、やっていけるんですもんね」
東野「僕なんかには考えも及ばないことですよ。西野は新しいシステムを外部から持ってきて、何も知らなかった吉本の社員に教えてあげていた。新しいビジネスモデルとして他のタレントにも応用できるし、吉本も売り上げが上がればウィンウィンな関係だと思います。辞めたことは残念ですけど、飛び出して成功するなら、それは素晴らしいことです」
■「渡部建さんはどうしたら復帰できる?」(原田)
原田「東野さんも新しいことを始める予定は?」
東野「僕はどちらかというと、いろんな芸人の成功話や失敗話を聞いて笑ったり喜んだり腹立てたりしているのが面白いんですよ。人の噂話を聞いてケラケラ笑っているのが楽しい」
原田「オリラジの中田さんはシンガポールに移住しちゃいます」
東野「西野もあっちゃん(中田)も芸人同士のくだらないやりとりが一切ない生活になるのって楽しいのかな。僕はそういうことが好きなので吉本を辞めることはないですね」
原田「事務所を辞めてひとりで活動していくなら、自分で営業もしないといけないし、ファンもどんどん高齢化していきます。どうやって人気を維持していくのでしょうか」
東野「昔、番組で銀行マンの方から聞いたのですが、元ジャニーズのあるタレントさんには、ジャニーズを辞めてもずっと固定ファンがいる。1年に1回、イベントやライブをする際にグッズを作るとなると数が決まっているから作りすぎない、在庫を抱えない。お金を貸す銀行から見ると、安定企業なんですって。何年も売り上げは変わらないから信用があるんですよ。だから、西野やあっちゃんも固定ファンがずっとついてきてくれるなら収入も安定するんでしょうけどね」
原田「ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんやピースの綾部祐二さんら海外志向の芸人さんもいらっしゃいますよね」
東野「村本はアメリカに行ってスタンドアップコメディーをやると言っていますが僕は絶対無理やと思うんですよ。やっぱり言葉の問題があるうえに、お笑いとなるとさらに難しい。海外ではなく日本でスタンドアップコメディーをやればいいんですよ。テレビに出るだけが芸人じゃないと思うし、批判する人もいるかもしれないけど固定ファンは必ずいる。日本中を回って村本が得意な世相を切ったり、政治家をこき下ろしたりすればいい。口の悪い綾小路きみまろさんみたいな感じで(笑い)」
原田「綾部さんも人気絶頂時にレギュラー番組を全部降板して、2017年からニューヨークで生活されています」
東野「いろいろな考え方の芸人の大きな受け皿が吉本興業であり、日本の芸能界だと思うので、正解も不正解もないと思いますよ。やってみて違うなと思えば軌道修正すればいいし。芸能界って失敗がプラスになる業界じゃないですか。例えば、綾部がニューヨークで結果を出せずに日本に帰ってきたとしても、それさえもネタになる。失敗が本当の意味での失敗ではないのが芸能界だと思うので、やりたいことがあるなら臆さずチャレンジしていけばいいと思います」
原田「吉本芸人ではありませんが、アンジャッシュの渡部建さんはどうしたら復帰できると思いますか」
東野「僕が言う立場じゃないですけど、テレビなんて捨ててどこ吹く風でYouTubeやればいいんじゃないですかね。(雨上がり決死隊の)宮迫や(TKOの)木下もYouTubeで頑張っています。YouTubeの登録者数を増やしてそれなりに稼げるようになって、『またいつかテレビ出たいですね』って言っていればいいんじゃないかなあ」
原田「グルメ路線ですかね」
東野「いや、ダメでしょ。あんなエロ舌(笑い)。でも、きちんと謝ったし二度と浮気しないのなら四六時中、恐縮していなくてもいいと思いますよ。セカンドキャリアじゃないですけど動きだしたほうが早い」
原田「でも昔の芸人さんって、もっと“破天荒”でしたよね。飲む、打つ、買うの三拍子じゃないですけど」
東野「昔は芸人が集まれば女性の話ばっかりしていましたけどね。こんなことやあんなことと面白おかしく失敗談で盛り上がったものですが、今は結婚している芸人は、たとえ浮気をしていようが絶対に話さないですね。独身の芸人でさえ口をつぐんじゃって誰も女性関係の話をしなくなった。毎年、大晦日の生放送では既婚者の芸人が浮気をしたと暴露されて“やめろやめろ”というお決まりの流れがあったのですが、かれこれ5年以上ないですからね。いろんな意味で“えらい時代”やなって思いますよ」
生き残る秘訣は「ちょっとずつマイナーチェンジ」
東野幸治さんとの対談の後編は大人気のお笑い「第7世代」について。このブームはいつまで続くのか。そして、令和の時代に生き残る芸人とは――。
◇ ◇ ◇
原田「昔に比べると芸人の数も多く、どんどん新しい人が出てきます。ここ数年、ブームになっている第7世代について、どう思われていますか」
東野「どんどん新しい人が入ってきて若返っていった方が、業界的には健全ですよね。新陳代謝が悪くなると全体が寂れてしまいますから」
原田「一目置いている芸人はいますか?」
東野「いや、今の僕が面白いと思う芸人は生き残らないと思うんですよ。テレビでずっとやってきた僕と、SNSを巧みに駆使できる第7世代の芸人たちって感覚も違いますし」
原田「僕なんかはテレビ局が若い層におもねって、第7世代の芸人さえ出しておけば若い子たちも見るだろうと考えている節があるなとも思うんです。必要なのは今の若者が何を求めているかであって、若者を出せば若者が見る、はあまりに安直です。それに第7世代を酷使し過ぎて、このままだと視聴者側もすぐ飽きちゃうんじゃないかと」
東野「確かに僕もそう思います。でも、ある一定の時期に集中的にテレビに出ていたのに、今はもうテレビで見ない芸人やタレントってたくさんいますよね。テレビは新しいものに食いつきがよくて、はやりものを大量消費して、すぐにポイッと捨てるんです。いい時だけチヤホヤする。でも、だからこそテレビは面白いと思うんです。テレビは見ている人も、作っている人も、無慈悲で残酷なんですよ。その中で残っている人は残っている」
■「僕はずっとテレビの世界にお世話になってきましたから」(東野)
原田「芸能界で生き残る秘訣とか共通点はありますか?」
東野「生き残っている人ってフルモデルチェンジはせずに、マイナーチェンジでちょっとずつ変えていっているんじゃないでしょうか。時代に合わせて大きくは変えないけど少しずつ変えている。意識的なのか自然かはわかりませんが、松本(人志)さんも(ビート)たけしさんも欽ちゃん(萩本欽一)も、結果として変わってますよね」
原田「東野さんは『ワイドナショー』で松本さんと共演していますが、松本さんもですか?」
東野「プレーヤーからプレーイングマネジャーになっている気がします。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)や『ドキュメンタル』(Amazonプライム・ビデオ)などでは誰かがいろんなことをやるのをプロデュースしたり見守ったりしていますが、10年以上前はそんなことやっていなかったと思います。(明石家)さんまさんでさえもマイナーチェンジしていると思います。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)が始まった時はビックリしたんです。原田さんも出演されていますが、評論家に話をさせる番組を、さんまさんがやるんだと」
原田「テレビというメディア自体も、時代ごとにどんどん変わってきていますからね」
東野「たしかにそうですよね。でも、テレビが滅びるとは思ってませんけど、今のような形ではなくなっていくとは思います。TVerや各局が運営している見逃し配信サイトがメインになって、ラテ欄が必要なくなったりするのかもしれませんね。だから、テレビはニュースやスポーツ、イベントなどの生放送対応になっていく気がします。オリンピックやM-1グランプリなどは、生放送で見たいですもんね。それが、テレビの一番の強みだと思います」
原田「東野さんご自身は今後どのような展望を描いています」
東野「全然ないですね(笑い)。なんとなく流れに身を任せていたら、こんな感じになっちゃったので。今後のことはわからないですけど、テレビ最後の日がもしあるとしたら、そのスタジオにはいたいなって思います」
原田「タイタニック号が沈没する直前まで演奏しているオーケストラの人みたいですね(笑い)」
東野「僕はずっとテレビの世界にお世話になってきましたから」
原田「一緒に沈む覚悟なんですね」
東野「本望ですよ(笑い)」
(構成=高田晶子)
▽東野幸治(ひがしの・こうじ) 1967年、兵庫県宝塚市生まれ。高校3年生のときに吉本興業の新人オーディションに合格して芸人の道へ。若手時代は心斎橋筋2丁目劇場を中心に活動、ダウンタウンが司会を務める公開生番組「4時ですよ~だ」などに出演。東京進出以降は今田耕司と「Wコウジ」としても活躍。2000年代からは司会者の仕事も増えている。「行列のできる法律相談所」(日本テレビ系)、「ワイドナショー」(フジテレビ系)などレギュラー番組多数。