3月大歌舞伎 石川五右衛門「絶景かな、絶景かな」に“新風”
■吉右衛門と幸四郎「わずか15分」に劇的緊張
第3部は吉右衛門の「楼門五三桐」と玉三郎の舞踊。「楼門五三桐」は15分前後しかなく、石川五右衛門の「絶景かな、絶景かな」のセリフで有名というか、それしかないようなもので、満足に動けなくなった老優がやるものというイメージだった。しかし、今月の中村吉右衛門の五右衛門と松本幸四郎の真柴久吉は違った。劇的緊張があり、この15分に、長い芝居のエッセンスが凝縮されていることを感じさせる。吉右衛門も幸四郎も、今月はこれしか出ないせいだろうか。
続いての玉三郎の舞踊劇はAプロが中村雁治郎との「隅田川」、Bプロが地唄舞の「雪」と「鐘ヶ岬」。玉三郎の舞踊劇は、針が落ちてもその音が聞こえそうな緊張感がみなぎる。舞台の照明を落とし清元は舞台下手奥に、ぼんやりと見える演出。くっきりはっきりと見せることは目的としていない。それなのに圧倒的な存在感。歌詞もあればセリフもあるのだが、バレエのような印象を与える。この幻想・幽玄の玉三郎世界と現実世界との橋渡しをするのが、鴈治郎の役割。
第3部は時間的には90分弱と短いが、心地よい疲労感とともに劇場を出た。
(作家・中川右介)