3月大歌舞伎 石川五右衛門「絶景かな、絶景かな」に“新風”
3月の歌舞伎座第1部は、中村勘九郎・七之助他の「猿若江戸の初櫓」と、尾上松緑・片岡愛之助・中村莟玉の『戻駕色相肩』と、30分前後の舞踊劇2つ。どちらも華やかでいいのだが、これだけだと物足りないというか、割高感がある。
こういう時だから楽しく華やかなものをという意図は分かるが、客席は沸かない。掛け声ができないだけではなく、客の気分とマッチしていないのではないか。
一転して、第2部は重厚な芝居が2つ。仁左衛門の「一谷嫩軍記/熊谷陣屋」と菊五郎・時蔵の「雪暮夜入谷畦道/直侍」。3時間弱で第1部と同額なのだから、時間だけ考えてもお得である。仁左衛門の熊谷は昨年の暮れに京都・南座でも演じていたが、東京では久しぶりなので、京都へ行けなかったファンにはありがたい。激情しない熊谷で、そのシビアな境遇がじわじわと伝わる。
菊五郎・時蔵の「直侍」は「またか」という感じだが、菊五郎に求められているのは、日常としての歌舞伎で、偉大なるルーティンワークとでもいおうか。第2部は来てよかったという気にさせる。