おふくろに「俺、幸枝若の子ぉか?」と聞くと軽い調子で…
幸枝若は高校生の頃から浪曲の才能を示した。
「曲師のおふくろの三味線で兄貴が浪曲の稽古をしてるんで、『俺にもやらせてくれ』と、『一本刀土俵入』をやったら、おふくろと兄貴が、『おまえ、いつ覚えたんや』とびっくりしてる。幸枝若のレコードで覚えたと言ったら2人とも変な顔しましたわ。知らないうちに実の父親の浪曲を覚えたんやから、驚くのも無理はない」
それから一光少年は、テレビ、ラジオ、レコードで初代の浪曲を聴きまくり、余興で初代の持ちネタを演じるようになった。
「17歳の時に腎臓を切除する大手術をして命を取り留めたんです。そんなことがあったから、母親としては好きな道に進ませてやりたいと思うたんか、『おまえも幸枝若の節をやっとんやから、弟子にならなあかん』と、初代が出てる劇場の楽屋に連れて行った。入り口で待ってると、おふくろと初代が話してる。後で聞いたらこんなやりとりがあったらしい。『あんたが7カ月で捨てた子がおるやろ』『そんな言い方すな』『その子が今、あんたの節をやってる。弟子にしたってや』と。そういういきさつで弟子になったわけです」