おふくろに「俺、幸枝若の子ぉか?」と聞くと軽い調子で…
実の父親と知らないで弟子入りしたわけだ。芸名は本名の福本から一字取って、京山福太郎。
「親子というのはすぐに知りました。周囲の人たちが、『よう似てるなあ。幸枝若はんも喜んでるやろ』と口々に言うんで、おふくろに、『俺、幸枝若の子ぉか?』と聞いたら、『ああ、そうやで』と軽い調子で認めた。『そうなんか、それで俺、すぐに節ができるんやな』と思いました」
「同じ血じゃもの肉じゃもの」という浪曲のフレーズがあるが、まさに血縁ならではの才能だったのだ。
「親子いうても初代には奥さんとの間に息子と娘もいる。あくまでも師匠と弟子として接しました」
浪曲の稽古はどのようにするのだろうか。
「1声、2節、3タンカ(語り)と言いますから、まず声ですね。おふくろには、オツ(低音)の声が基本だと教わりました。オツからカン(高音)へ移るんで、オツの声ができないとカンも出なくなり、音域が狭くなる。ですから、嫌というほどオツの稽古をさせられました」
幸枝若は基本をたたき込まれたから自在に節を操れるのだ。(つづく)