夜の銀座はクラブ「姫」の時代 作詞家・山口洋子の始まり
銀座のクラブ「姫」をオープンした山口洋子は、後年になって老舗店のマダムについて次のように書き残している。
《雨あがりのある夕刻、雨ゴートに青い傘を持って歩いてくる「お染」のママとばったり行きあったことがある。渋い玉虫のコートに抜けるようなまっ白い顔。お染さんはちらと私の顔を見ると、小腰を屈めるでもなく会釈をするでもなく、そのくせ充分なリアクションをこちらに伝えて、静かに通り過ぎていった。舞で鍛えた人の優雅な物腰だった》(「ザ・ラスト・ワルツ――『姫』という酒場」文春文庫)